APS-Cカメラで格安レンズを使って美しい背景ボケを得る

フルサイズ機の一眼レフと異なり、APS-Cカメラで美しい背景ボケを得るのは難しい。カメラレンズの光を受け取るセンサー部分のサイズが違うのだから仕方ない。

絞り値(F値)を小さくできる単焦点レンズを使用し、できるだけ被写体(コスプレイヤーさんなど)と背景の距離を取るように頑張っても、センサーが小さい分だけボケも小さくなってしまう。Canon EOS R50のようなAPS-C機を利用する者は、コスプレ撮影ではプロカメラマンたちが使用するフルサイズ機のような自由度はなく、限られた手持ちカードで戦うことになる。

単純に、『引き出しの数』が少ない……

ところが最近、Adobe Photoshopのようなソフトウェア的なボケ加工に頼ることなく、この状況を柔らげてくれる存在が登場した。それが《中華レンズ》と呼ばれる中国製レンズである。自分が使用しているのは、『七工匠 7Artisans 35mm F0.95』という単焦点レンズだ。Canon機の場合は1.6倍だから、F/0.95 x 1.6 = F/1.52 …… このくらいならば、フルサイズのズームレンズよりも遥かにボケを得やすくなる。

今回はこの『七工匠 7Artisans 35mm F0.95』の使い心地を紹介させて頂くことにする。

MFレンズ!

まず最初に知っておいた方が良いのは、当然ながらメーカー純正のレンズの方が性能は高いし、そうでなくてもShigmaなどには及ばない。基本性能は悪くないけれども、昔のレンズ設計を採用している。

自分の場合はオールドレンズが趣味なので問題ないけれども、ゴーストやフレアに強くない点は念頭に置く必要がある。

それから今回はAPS-C機の話だから問題ないけれども、フルサイズ機には使えない。小さなAPS-Cセンサー部分ならば調子は良いけれども、さすがにフルサイズの面積になると周辺部分を処理しきれなくなる。だから商品名や商品説明部分に、「APS-C用」とハッキリと記載されている。

それからMFレンズ、つまり「マニュアルフォーカス」だ。最近では当たり前の「瞳フォーカス」はモチロンのこと、一般的なオートフォーカス機能もない。レンズ部分を手動操作してピント合わせする必要がある。だから焦点の合った部分の輪郭を赤や青で表示する「フォーカスキーピング」機能や、液晶モニターの映像を拡大表示させてピント合わせする機能などを利用することになる。

ま、考えてみれば、50年前……オールドレンズ時代にはフォーカスキーピング機能も拡大表示機能もなかった。ひたすらファインダーの映像を頼りに、ピント調整をやっていた。それを考えると遥かに良い状況ではある。

ちなみにAPS-C専用やマニュアルフォーカスは、大きな利点を与えてくれる。レンズ機構を簡略化することができるので、「軽い!」「安い!」を実現しやすい。

軽さに関してはユーザニーズを汲んで、最近は軽量化を図ってきたカメラメーカーも多い。しかしその分だけ材料や設計に工夫が必要となり、その分だけ商品価格へ跳ね返ることになる。たとえば自分の使用しているSONY RX1Rコンパクトデジタルカメラは、フルサイズ機だけれども「おおっ!」と声の出るような価格だ。

それから今ではオートフォーカス機能を装備した中国製レンズも登場している。自分としては興味ないけれども、選択肢が増えるのは良いことだと思う。

そういえばMFのことを淡々と語っているけれども、それは自分がポートレート撮影から入っている影響があるかもしれない。静止画を撮影する場合、被写体の動きに応じてピントを調整する「瞳フォーカス」機能は必須アイテムではない。センサー部分が受け取るデータを拡大して、ピンぼけに見えなければ問題ないからだ。

ここら辺はレンズ利用者の環境次第なので、いさぎよく中国製レンズ利用を見送るのも一案だろう。

ズームレンズ以上の背景ボケ

さて冒頭で紹介したように、さすがにF/0.95だとAPS-C機でも実質F/1.52相当になる。ニコンなどはセンサーサイズが微妙に違うので1.5倍となるので、実質F/1.43だ。

だいたいズームレンズの場合、高級タイプでもF2.8固定が大半だ。だから同一焦点距離の場合、単焦点レンズの方が背景ボケを得ることが容易だ。F/1.5は悪くない…… もちろんメーカーレンズのF/1.2には及ばないけれども、普通のユーザーには十分だと言えるだろう。

なおズームレンズはF2.8だからと侮ってはいけない。距離を取れる場合にはズーム機能を使えるので、同じF値でも背景ボケを得やすくなる。これは一長一短だと言える。

(だからコスプレ撮影できる会場には、三台のカメラを抱えている者まで存在する)

注意事項1:AFの1.2倍の撮影時間

さてMFレンズで注意する必要があるのは、どうしても最新AFレンズと比較して『ピント合わせ』の時間が必要となってしまうことだ。MFに慣れているプロカメラマンでも、AFに比べると「カメラを構えてから構図を調整して撮影に入るまで1.2倍程度の撮影時間」が必要となることが多い。

そんなに大した時間ではないと思うかもしれないが、実はこれは人物撮影では大きな問題点だったりする。特にコスプレ撮影だと、コスプレイヤーさんたちはカメラを構えてからシャッターが押されるまでの時間を把握しているので、それにタイミングを合わせて呼吸や表情を調整する。

そこでワンテンポもツーテンポも時間がかかってしまう……。この部分をどうやって改善するかが、MFレンズ利用者で差の生じる部分だ。何しろ事前に「マニュアルフォーカスなので、カメラを構えてから撮影に入るまでに時間がかかります」と言っても、『はて、なんのことかしら?』となってしまう。

ロケットの発射のように「10、9、8、7、…」とやるのは格好悪い。自分が格好悪いのは全く問題ないけれども、『格好悪い自分』に撮られるレイヤーさんのことを考えると申し訳ない。

ここは事前に想定距離にピントを設定しておくのに加えて、もう一工夫するのが良い。自分の場合は「さんっ、あらっ」とか言って時間稼ぎをする場合もある。

注意事項2:暗所でのストロボ使用

MFレンズにとって最もツラいのは、真っ暗な状況だ。明るさはF/0.95だけれども、液晶モニターが暗くなっているとお手上げだ。だからISO感度を上げて液晶モニター映像を明るくし、その分だけストロボは弱めに設定する必要がある。

これは、言うのは簡単だけれども実行は大変だ。それにせっかく暗所でコスプレイヤーだけ強調できるのに、わざわざそのメリットを捨てることになる。

そこで最近ではいっそのこと、ストロボでなくてLEDライトを使えないかと試行錯誤している段階だ。

まとめ:大切なのは顧客満足度

以上の通りで幾つかの留意点はあるけれども、それなりに『七工匠 7Artisans 35mm F0.95』は使い物になる。もちろんゴーストやフレアには強くないので、レンズフードは装着した方が良いだろう。

それから「何がなんでもF/0.95」に拘らないことが大切かもしれない。自分の場合はShigmaの30mm F/1.4と併用している。これはF/1.4 x 1.6 = F/2.24と併用している。被写体と背景で距離を稼げれば、これでも十分だ。

ともかく大切なのは、写真を見たり、写真を受け取って下さる方々の満足度だ。そのためのカメラ&レンズであり、F/0.95なのだ。

あまり背景ボケに囚われ過ぎずに、写真としての満足度を最優先事項として『七工匠 7Artisans 35mm F0.95』を活用して行きたい。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野正樹