マンションの理事長が暴走する理由と問題タイミング

マンションの理事長が暴走

当記事に興味を持つのは、実際に理事長が暴走している渦中かもしれない。具体的にどうやって理事長を交代させるかは、先の記事通りだ。最近では都内某マンションでも交代劇があったし、相当数の住民というか理事会が賛成すれば、理事長交代は可能だ。

何を隠そう、僕も貴重な管理を浪費する暴走タイプのマンション理事長だった。しかし暴走タイプであって、実際に暴走して理事長交代となったことはない。

それから「やさしい独裁者」として、二十年近くに渡ってマンション理事長を務められた方も数名存在する。独裁者だからといって、暴走して困るという訳でもない。

それにマンション理事長というのは、実は基本的に暴走する存在だったりする。そしてその暴走を直ちに止めた方が良い「要注意タイミング」が存在する。

今回は入門編として、このあたりをざっくりと紹介させて頂くことにする。

マンション理事長の暴走理由

まずマンションというのは集合住宅である。集合住宅ということは複数住戸で構成されている。似ているようで、各戸のニーズは異なる。

だから誰もが完全に満足するということはあり得ない。皆で意見交換をし、譲れるところは譲り合い、最後は多数決原理で物事を決定していく。

だから全戸から完全に満足される理事長というのは、存在しない。何もしなければ、それはそれで立派な「マイナス方向への暴走」である。

だからマンション理事長を経験した者としては、皆の意見を聞きつつ、理事会決議や管理組合決議をしてマンション運営を推進する。そして当然ながら、自分の利害も織り込む。もしくは自分が「正しい」と思うことを進めようとする。

だから理事長歴20近い理事長でも、AI(人工知能)によって最大多数の最大幸福を計算可能なロボットであっても、住民の完全満足は実現されない。そんなものはマンションの持ち主になったことのない者の夢だ。

マンションの持ち主は管理組合に所属し、理事会への貢献が義務となる。理事会は外部採用もあるけれども、マンションの持ち主で構成されたオーナーズ倶楽部だ。最近では日本でも第三者管理委託が流行しているけれども、それも「委託」である。

問題は理事会や住民から「暴走」とみなされるほどの振る舞いにまでエスカレートしているかどうかだ。基本的に理事長は、皆が嫌がることを意図的に実行しようとはしない。大抵の場合、善意が空回りしてしまっている。これが理事長の暴走理由だ。

僕の知っている例だと、マンション初代理事長が「暴走」することが多い。普通の庶民は、マンションを何度も購入することはない。だから初代理事長は、完全に未経験な状態からスタートすることになる。だから誤った方向に踏み込んでしまうことが多い。

それから別な場所の流儀、つまり会社の流儀を持ち込んで暴走するタイプの理事長もいる。何かというと、「本日の会議のアジェンダ」といって自分の青写真を取り出すのだ。大学教授で講義スタイルを踏襲し、「理事会は2時間以内で」と仕切ろうとするタイプもいる。

会社では社長、事業部長、本部長、部長、課長がそれぞれの分掌の指揮権を全面的に保有しているし、大学教授の相手は学生だけだ。だからトップダウンで物事を進めようとして悲劇になることが多い。意地になって、自分を改めようとしないのだ。

マンションというのは各戸が所有権=代表権を持ち、持ち主によって管理組合が結成される。その管理組合を運営する組織として、理事会が設立される。そのように民法および管理組合規約で規定されている。だから基本的は多数決で、理事長には大した権限はない。

理事会は一定の権限を委任されているので、管理費の使い道を決定する権限などを保有している。しかしこれは理事会であって、理事長ではない。勝手に理事長印を使って銀行口座から管理費を引き出し、自分の使いたいことに出費するのは犯罪行為だ。

そのようなトラブルを防ぐため、大抵のところでは印鑑は理事長が所有し、通帳などは管理組合が所有している。振替手続きや支払い手続きも、管理会社が理事長に書類決済して貰って実行している。

実際に理事長をやってみると分かるけれども、厄介ごとが多いのにも関わらず、ストレスばかり溜まる仕事だ。ちょっとしたことは全て理事会合議をしないと、何も決めることが出来ない。理事たちは各々の立場で、率直に言いたいことを言う。それが適正運営のポイントだから、意見には慎重に耳を傾ける必要がある。

最近の風潮は、会社や大学でも意見を聞くことが半ば義務化されている。会社のお偉方のストレスも大変だと思う。議長として議事進行する権限を有するものの、それを有効に活用できないのだ。世話役のような面を持っていないと、地雷を踏み続けることになる。

どんな時でも他人の意見へ真摯に耳を傾けて、最大多数が合意する内容を落としどころに纏めていく。それを我慢できない理想追求型の理事長が、羽目を外してしまう。これが大抵の場合、マンション理事長が暴走する理由だったりする。
(なまじ意志力が強くて頑固なので、ほとほと手を焼いているマンションも多い。気の毒としか言いようがない)

要注意タイミング

さて暴走して変な物事を進めようとするマンション理事長の振る舞いが、シャレでは済まなくなる時期がある。数百万円でエントランスの絨毯を張り替えるなど、まだ可愛い部類に属する。

特にシャレで済まないのは、マンション初代の理事長だ。なぜならマンションには「二年目アフターサービス」などと呼ばれる制度がある。瑕疵で無償保証して貰えるのは、施工後二年間と限定されているのだ。

だから初代理事会は住民コミュニティの形成や業者選定などでTODOが多いのに加えて、マンション内の問題点を洗い出し、施工主に改修依頼を出す必要がある。昔は売主がここを巧みに切り抜けようとして、あれやこれやのトラップを仕掛けて来た。

最近では12年周期の大規模修繕でなく、15年や18年を考えるマンションも多い。しかしその土台となるのは、この二年目アフターサービスを徹底的に活用することだ。何も準備することない無為無策で、修繕サイクルを伸ばすことは出来ない。理事長は経験豊富な者が望ましい。(しかし初代理事長は売主が適当に決めることが出来るようになっていることが多く、これがまた課題だったりする)

初代理事会が上手く機能しないと、二代目以降は大変に苦労する。管理会社に任せれば良いだろうと考えてマンション購入する者も多いが、管理会社は管理組合から業務委託されているだけの存在だ。僕の近所で400戸を超えるマンションなどは、理事会が流行に流されて突っ走ってしまって、管理会社を「安かろう悪かろう」と評判高い会社に変更してしまった。

そういうところに任せると、過去の補修履歴などのデータが適切に管理されず、何か不具合が生じた場合でも状況把握から物事を進める必要がある。過去データが残っていないから、何がどうなっているのかという点から調査開始する。機器交換ならばともかく、外壁修理などは大変だ。

何しろ足場を組んで補修したのであれば、足場を組んで状況を徹底的に調査する。それから結果を検討して、補修内容を決定する。管理費の普通修繕の範囲を超えれば、臨時総会を開催して、修繕積立金を使う承認手続きが必要となる。

これが過去データがあれば見当が付けやすいので、スムーズに対応できる。先ほどの近所のマンションにしても、理事長が状況を把握して適切にコントロールできなかった為に、資材は高級マンションだったのに並マンションとなってしまった。

またこのことから分かるように、マスメディアなどで根拠なく報道されたブームが起こった時は要注意だ。最近ではマンション管理のコンサルティングを提供してくれる会社も存在するので、そういったところを上手に活用することも大切だ。

何しろマンションの持ち主は、マンションの建物や管理のプロではない。建物といったハードウェア的にも、理事会/管理組合の運営といったソフトウェア的にも素人ばかりだ。

だから何とか初代理事長と力を合わせてマンション管理を軌道に乗せ、数年後の駐輪場問題、12年後の大規模修繕といった課題タイミングに合わせて優良マンション理事長を投入することが望ましい。このあたりまでコントロールできるように管理組合がコミュニティ強化されていると、マンションの資産価値も変わって来たりする。

20年近くも理事長を任せることが出来るような人材がいれば、そのマンションは頼もしい。ただし後任者の問題が生じるので、その辺も抜かりなく体制固めしておくことが大切だったりする。

まとめ

以上の通りで、マンションの理事長が暴走する原因は、熱意が空回りするとか、自分視点だけに囚われてしまっていることが殆どだ。少なくとも僕がこれまで見聞して来たところでは、全てこの範疇になる。

「個人としては悪い人じゃないし、組織では優秀な人なんだけれども、マンション理事長としては…」ということである。理事長に必要とされる資質は、一般の日本的な上位下達の組織で要求される資質とは異なっている。また大胆過ぎても、慎重すぎてもいけない。

それから理事長が毎年変わる輪番制のところだと、どこかでババを引く確率が存在する。だから、できるだけ誰をいつ理事長にするのかも管理組合で合意形成出来ていることが望ましい。

しかし… マンションというのを「隣を気にしなくても良い都市型住宅」と勘違いしている人が多いことに驚かされる。実態は共用区画と専用区画で形成された集合住宅であり、普通の一戸建てよりも遥かに共棲関係が必要となる。

この点を無視していると、「ある日突然」という事態に遭遇する可能性が高まる。幸いにして一生何ごともなく過ごせれば良いけれども、実態を知らずして運任せにするには高額過ぎる買い物かもしれない。

「あとは野となれ山となれ」と割り切ることも大切だけれども、本記事をここまで読んで下さるような方がいれば、その方はマンションの理事長となっても良いかと思う。

僕も会社の上司からは「理事長には向いていない」と言われたものの、大規模修繕が一段落して落ち着いた時期を勤め上げ、管理組合(マンション住民)に貢献することが出来た。いろいろな方々からご支援頂けて、その点は大変に感謝している。

ともかくマンション理事長が暴走した場合には粛々と対応することになるけれども、できれば事前に暴走の芽は摘んでおくことが望ましい。その意味でも、日ごろから住民間のコミュニケーションが本当に大切だと感じる今日この頃である。

それでは今回は、この辺で。ではまた。

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記事作成:小野谷静