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インフルエンザの予防接種を打つ現場と自宅が戦場のようになった件

さて先週末にインフルエンザの予防接種を打ちに行ったのだけれども、恐ろしく体力と気力を消耗する結果になってしまった。その模様を、今更だけれども実況報告しておきたいと思う。

私は用事をさっさと済ましておくのが好きな性格だけれども、その日は子供と本屋や図書館へ行く約束をしたので、宿題が終わるのを待つことになった。その宿題が無事に終わって出かけようとして奥さんに声をかけたら、奥さんが意外なことを言い出した。

「Mikanちゃんとは私が一日遊ぶので、お父さんは家でゆっくりしていて下さい。」

は?

今まで調子悪そうにしていたから朝食も子供と一緒に作ったし、今もそんなに元気なようには見えない。むしろ悲壮な感じさえ漂う感じのだけれども、気のせいだろうか。思わず、理由を尋ねてしまった。

しかし奥さんはモゴモゴと、きちんとした説明をしてくれない。挙句の果てには、「言うとパパが怒るから。」と、言い出した。怒るかもしれないけど、きちんと説明しないと逆に怒りかねないだろうと諭すと、ようやく口を開いてくれた。

「今日は私の調子が良くないから、Mikanちゃんの英語レッスンを休むことにしたの。私だけだと何だから、Mikanちゃんも調子が悪いと言ったの。だから彼女には外出して欲しくないの。」

うーむ、別に小学校四年生が近所に行くのに、もう同伴者はいなくても大丈夫だろう。これはおそらく月謝を渡す日か何かで親も同伴することが望ましく、それを回避する名目として「子供の調子が悪い」とだけ、自分のことは棚に上げて欠席連絡をしたような予感がする。

まあいずれにせよ、欠席は欠席だ。その点を追求するのは止めておくことにした。

しかし収まらないのはMikanお嬢様である。いきなり声を上げて泣き出した。「私、調子悪くないし、しっかりレッスンに行く準備もしたもん!」

根がウソをつくのが嫌いな正直者である。ものすごい勢いで泣く、泣く、泣く。ここまで激しく号泣するのは久しぶりである。仕方がないので話題を逸らすことにした。

ともかく図書館と本屋でお目当ての本は決まっている。今日はインフルエンザの予防接種を奥さんに予約して貰った日なので、早く行かないと帰りがけに病院に立ち寄ることができなくなってしまう。なので、ともかく私は出発準備をすると皆に宣言した。

すると今度は奥さんが、いきなり「あー!」という叫び声を上げて、真っ青になって慌てて台所へ突撃していった。今までぐったりしていたのが、まるでウソのようだ。

実は何でもインフルエンザの予約は時間制であり、私は9時30分だったのだそうだ。で、今は11時近い。慌てて持って来てくれた予約表には、30分以上遅れるとキャンセル扱いになり、もうその病院では予約受付できなくなるという物騒な注意書きが書かれている。そしてオマケにと、体温計と問診票を渡された。事前に問診票に記入して来院することが必要なのだそうだ。状況はかなり厳しそうだ。

しかし私も、うだつが上がらぬとはいえ、何十年も会社生活を切り抜けてきたベテランである。おまけに子供の心を静めるために本屋と図書館へ行く必要がある。ともかく、”ダメでもともと” と考え、病院へ行くことにした。

自宅で体温を測り終えたら、さっそくマンションを出て、歩きながら問診票を記入する。保険証と診察カードは、予め準備してある。ほどなく病院へ到着し、迷うことなく受付に向かった。もちろん内心とは裏腹に、慌てたそぶりは一切見せない。他の人に譲るような感じで、あえて余裕ある雰囲気を演出する。

そして保険証、診察カード、問診票を提出した。予約表はあえて出さず、カバンの中にしまってある。ここの受付スタッフは優秀なので、診察カードさえあれば大丈夫だろうという “読み” だ。案の状、予約表には言及されなかった。受付嬢は、さっそく困った表情で話しかけて来る。そうだろう、予約しか受け付けない日なのに、待合室は人、人、人で溢れかえっている。

「あのー、お客様は9時30分の予約で、残念ながら既にキャンセルとなっているんですけど。」

予想通りの展開である。ここが最大の山場である。勢い込むのではなく、逆に沈痛な面持ちになり、「え、そうなんですか。実は予約を頼んだ家内が倒れてしまって看病をしていて、何とか問診票を見つけ出して取り急ぎ伺ったのですけれども…」と、医療に携わる者の病人介護という基本理念に訴えかける。情に頼る作戦である。もちろん、さりげなく溜息もつく。

はたして私の三文芝居が受付嬢の心を動かしたかどうかは分からない。しかしこの病院は精鋭スタッフが揃っている。システム上でキャンセル手続きになってしまった後でも、それをリセットするための仕掛けはある。面倒な手続きだけれども、その気になれば彼女たちは何とかすることが出来る。私を担当してくれた受付嬢は、仕方ないと判断してくれた。

「分かりました。予防接種を受けれるようにしましょう。ただし今から割り込みを入れるので、相当お待ちいただくことになります。ご容赦ください。」

さすが精鋭スタッフである。「ご容赦ください」という、その一言がすごい。思わず心の中で、「すいません、すいません、ありがとうございます」と、拝んでしまった。

さてこれで一件落着ではない。数えると待合室には57名の人がいた。付き添い人がいるとしても、相当な人数である。ときどき診察室の方から、子供の「ギャー!」という悲鳴も聞こえる。待合室では数名のおじさんが、ノートパソコンを開いて仕事をしている。なんだか、今日は病院というよりは戦場という雰囲気である。相当待たされることになりそうだ。

しかし驚いたことに、待ち時間は30分程度で済んだ。思わず喜んだけれども、すぐにそれは早計だったことに気が付いた。

まず昨年の別病院でアルバイト医師が担当していたのと違い、診察室に入ると、待っていたのはいつもお世話になっている先生だった。しかし一見して、今までと雰囲気が違う。

「はい、まずは口を開いて下さい。」セリフはいつも通りだけれども、今日はヘラのような器具を使って喉が良く見えるようにはしない。そんなことをしている時間も、器具を洗浄する時間もないのだろうか。

そして次に驚いたのが、「心音を診ましょう」と聴診器を当てるのだが、何とセーターの上からである。うーん、これで心音を確認できるのだろうか?  ともかく、「はい、接種可能です。中待合室で待機していて下さい」というお言葉を頂戴することが出来た。

で、最後の驚きがやって来る。注射はあっさりと終わり、消毒用ガーゼを当てるところまでは普段通りだが、「では、待合室へ行ってお待ち下さい」と言われる。今までは暫く中待合室で待機してからバンソーコーのようなものを貼っていただいたけれども、そのプロセスが省略されている。

そうして待合室で待機していると、3分程度で受付に呼び出された。「特に血は出ていませんね。ではガーゼはそこのゴミ箱に捨てて下さい」と、何と受付嬢に確認され、そのまま会計して手続き終了となった。たしかに注射された時の感覚が例年とは違ったけれども、この方面で技術革新があったのだろうか?

ともかく恐ろしく慌ただしい雰囲気の中で、私のインフルエンザ予防接種は終わった。あとは、その体のまま図書館と本屋へ向かい、1時間ほどして帰宅した。

そうして帰宅したら、お嬢様はご昼食を終えられていた。何やら小型ビーカーで牛乳を計量し、タッパーに注ぎ込んでいた。何をやっているのか若干気になったが、うかつに首を突っ込むと、何に巻き込まれるか分からない。そっとしておくことにした。

とりあえず調達して来た本だけ渡して、朝飯にお作りになられたフレンチトーストを頂き、執事(父親)は昼寝させて頂くことになった。いやはや、くたびれましたな。