湯川学

【ガリレオ湯川学も着用】遠近両用(中近両用)メガネの仕掛けと便利さ

人間の眼は一種のレンズだけれども、双眼鏡のようにピント合わせが必要ない。筋肉の力で、適当な形にレンズを変形させている。この筋肉の力は生まれた時から徐々に弱くなっていき、昔だと40歳過ぎあたりから “老眼” といって問題になって来た。

しかし最近はスマホが普及したこともあって、30歳過ぎから老眼に気付く人が増えてきた。そこで遠近両用メガネとか中近両用メガネとかいったレンズに人気が集まっている。今回は、それらの原理を簡単に紹介してみることにする。

ちなみに冒頭の画像は、私が利用しているLindberg Spirit Plateのレンズ型番2050を若干サイズ変更したものだ。ガリレオ湯川学教授のメガネとは別物だ。(彼はシーズン1ではクロニックCH-046を使用しており、シーズン2ではオリバーピープルズOP-677-Pを使用している)

  1. スマホ老眼って何?
  2. 遠近両用と中近両用
  3. 遠近両用の設定例
  4. ガリレオ湯川学

(1)スマホ老眼って何?

実に良い質問である。別にスマホを使っていると老眼、すなわちピント調整力が落ちて、遠くしか見えなくなってしまう訳ではない。

冒頭の通りで、人間というのは8歳くらいだと大体8cm前の物体を見るようにピント調整することが出来るが、20歳だと12cm程度に落ちる。ちなみにMikanお嬢様は近視なので、無限遠-8cm程度ではなくて、30cm-7cm程度になっている。

これをメガネのレンズを介することで、4m-11cm程度に調整している。親であるヒツジ執事としては、これ以上は近視が進まないように願うばかりである。

では皆さん、スマホは目からどのくらいの距離で見ているだろうか。

おそらく20-30cm位かと思う。つまり30歳を過ぎるとスマホは離さないと見にくくなってしまい、「スマホで老眼になってしまった!」と愕然とする訳である。

ちなみに筋肉なので、短時間ならば20-30cm位にピント調整することが可能だ。しかしスマホは長時間連続して使う。単純にスマホが普及したので、ピント調整力が落ちたことが明確に分かるようになっただけである。

(2)遠近両用と中近両用

仕掛けは分かったので、次はどうするかと考えることになる。

普通のメガネのレンズは、虫メガネのような “単焦点” レンズである。なので、近くを見たい部分は、近方用の度数に変更してしまえば良い。

実は最近のメガネレンズの多くは、足元部分を見る箇所が微妙に度数調整されている。

これをハッキリと強く度数変化させるようにしたのが、遠近両用とか中近両用と言われるレンズである。

簡単に言ってしまうと、上方から下方に移るに従って、徐々に加入度数が強まるようになっている。つまり空は相変わらずハッキリ見える一方、少し視線を落とすと近くが見えるようになる。遠方専用と近方専用で、メガネを二つ作っている人も多いのではないだろうか。

で、遠近両用とは、基本的に水平方向で遠方が最も見えやすく、そこから下方向に向けて度数変化の始まるレンズである。

一方で中近両用とは、レンズの相当上の部分から度数変化が始まっているレンズである。水平方向の時は液晶ディスプレイ等を使っていることを想定し、その位の距離や視線が最も見やすくなるように作られている。

上の絵だと左側が遠近両用レンズで、右側が中近両用レンズである。

どちらも度数変化が延々と続く訳ではない。もともと遠近両用にしても中近両用にしても、主に使うと想定しているレンズ部分が想定されている。そのために度数変化は8mm-30mm程度が多い。

それを超えると、ドクタースランプのアラレちゃんみたいな巨大メガネで、思い切り上に視線を移動して遠くを見るとか、思い切り視線を下に移して近くを見るという漫才みたいな真似が必要になってしまう。

ともかく1枚のレンズで度数を大きく変えるというのは、技術者からすると悪夢のように複雑な話である。

と、いうか、そもそも不可能なのだけれども、高性能コンピュータや熟練者の技に頼り、「まあこんなものかな」という範囲に歪みを留めている。だから高価な遠近両用レンズだと、18万円を超えてしまうものが存在する。

またこの技術革新は現在も続いており、最近は技術の蓄積やスーパーコンピューターの性能向上により、昔では考えられないような快適さを実現できるようになった。それで一般庶民向けのスリープライス店でも結構良いレンズを調達できるようになり、JiNSの東海光学やZOFFのセイコー等はコスパが大変に良いと驚かれている。

(3)遠近両用の設定例

では良いレンズを買えば万事OKかというと、話はそんなに簡単ではない。人間の視線の動かし方というのは人それぞれだし、眼を使ってする仕事も千差万別である。

かなり以前から個人用にレンズ設計した ”インデビデュアル・レンズ”などという代物も登場している。フレームがコンマ数mmずれると見え方が変わってしまうだから、レンズ作成時の測定も入念に行う必要がある。何台もの機器で測定する。

さらに、どういう眼の使い方をしているかの事前ヒヤリングも大切だ。

だから下手すると腕の良くない眼鏡屋さんで作った10万円以上するレンズが、腕の良い眼鏡屋さんで作った1万円のレンズの見え具合に及ばないこともある。なんとも厄介な世界である。

おまけに本来は水平方向で遠方が良く見えるように設計されている遠近両用レンズを、上の絵のように意図的にずらして作るという技も存在する。この記事を書いているメガネも、実はこのような設定で作って頂いたレンズである。(さらに言うと、遠方部分でも+0.25している)

もちろん単純にずらしただけでは快適に見ることの出来る横幅が減ってしまうので、PD等の設定変更も必要となる。

昔から、「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ」いう諺があるが、「良い眼鏡店(メガネ技術者)は金の靴を履いてでも探せ」と言い換えても良いだろう。

(4)ガリレオ湯川学

彼はシーズン1では、手元を見る時にメガネをかけていた。一番最後の「真夏の方程式」では常用するようになっていた。

最初はコンタクト+メガネだったかもしれないけれども、少なくとも今はメガネを常用して、遠くも近くも見ている。遠近両用か、中近両用を装着していると考えて間違いないだろう。

おまけにシーズン0では、彼は海に飛び込んでいた。コンタクトを付けて飛び込むというのは、あまり考えられないような気がする。そして彼のメガネレンズは、メーカーサイズだと縦幅28mm程度で、どう見ても30cmは超えていない。

それで体育館の討論会から机上の資料調査まで1本で済ませているので、相当高度な設定で作成したということになる。

ちなみに冒頭のガリレオもどきメガネは、まさに高度な設定で製作されており、これ1本で車の運転から読書まで出来てしまう。手元での加入度は2.25相当である。

ここまで行くには、職人さんと一緒に多くの試行錯誤をした。下記のグラフは、今まで作成したレンズの度数変化を表したものである。これはほんの1例に過ぎず、自分でも驚く程のレンズを試した。

それを元に職人さんと相談し、究極の遠近両用1本が出来上がった訳である。レンズは2万円程度だ。

ちなみにスマホ老眼の奥さんは、水平方向のすぐ下でスマホを見たいとの洗剤… でなくて潜在欲求を抱えており、累進帯長10mmの加入度数2.0遠近両用となった。レンズ代は9万円である。

そうそうレンズの歪みを感じる部分を減らすため、出来るだけレンズの理想形である円形に近いフレームも購入した。ちなみにガリレオ湯川学モデルも、かなりオーバル(楕円)に近い。遠近両用レンズを製作する場合には、レンズ形状にも拘った方が良いのだ。

そしてここまでやったのに、あと数年したら、奥さんは金や現在のテクノロジーでは対応できない段階に突入するだろう。とりあえず日本には数台しか存在しない測定機器を使い、制作費用18万円する某社に頼ることは覚悟している。

ヤレヤレ、である。