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ショートショート小説:生徒会長への道

ぱくそた素材:川村友歌

「田原君、生徒会長に立候補してみない?」

いきなり職員室へ呼びされた俺は、担任の先生から驚くような提案をされた。

誰だって驚くだろう。なにせ我が校には、オバケンというニックネームを持つ超有力候補がいる。1年生なのに副会長をやっていて、人望も厚い。

全校生徒の殆ど全てが、今後の生徒会選挙では彼が当選すると思っているだろう。立候補するなんて、無謀を通り越して、太平洋を泳いで米国に行こうとするようなものだ。

それなのに、だ。

「先生としては、良いことだと思うんだけどなあ」

いったいどういう風の吹き回しだろうか。面くらって、声も出ない。

しかし先生は、オレが怒って沈黙していると勘違いしたようだ。少し慌てた感じで、説明をしてくれた。

「ほら、君はS高に進学したいんでしょう。だったら立候補するだけでも、内申書に書くことが出来るから」

実に痛いところをついて来る。兄貴が二人ともS高に進学しているけれども、オレはそんなに頭は良くない。成績で考えると、今のままでは難しいだろう。しかし形だけの立候補はイヤだ。

「先生、オレは内申点のために生徒会長に立候補なんてしたくないっす。それにラグビー部のキャプテンの仕事もあるし」

「そういう考え方をする君だからこそ、生徒会長という立場も悪くないんじゃないかと思うのよ。それにオバケンだって、対立候補がいた方が張り合いがあるでしょ」

実にいい加減だ。まあこのいい加減さが、我らが担任の良いところでもある。

「あとね、何ならクラスのみんなに、あなたをバックアップするようにお願いするから。もしかしたら、ドキュメンタリー映画にして、文化祭で上映できるかもしれないわよ」

この提案は、正直いって予想外だった。部活でキャプテンをやっているけれども、県大会の予選突破は難しい。つまり特にいうほどの取柄がないオレにとっては、ちょっとした記念にはなる。

なんか上手に乗せられたような気もするものの、今一つ部活や勉強をする気になれていないのは事実だ。なんか年の功に言い負かされた気がするものの、ともかく生徒会長に立候補することにした。

*****

いざ生徒会長に立候補することが決まったら、時間は急に動き出した。

まずホームルームが開かれて、先生からクラスメイトに説明があった。なぜかクラスとして、”E組”選挙対策事務所なるものが開設されることになった。所長は学級委員長の上村だ。

設立の発案者は、オレが嫌いな高橋だ。何でも分かったような、エラそうな言い方をする。日頃は大人しい顔をしているクセに、妙なところでアレコレと言い出すところがある。

妙に筋が通っているだけに、なかなか反論しにくい。おまけに映画に使える8mmフィルムを持っていたりして、欠かすことはできない存在でもある。クラスの連中もノリノリで、オレとしては上手に神輿に担がれたような気もする。

ともかくクラスとして体制が出来上がり、金勘定まで含めて任せられるのはありがたいことだ。今まで部活で身内としか付き合いがなかったけれども、こういうチームも悪くないものだと思い知らされた。

ともかく上村を先頭に、役割が割り振られていく。ポスター制作班、ビラ配り班、所信表明パンフレットの作成などと本格的だ。クラスの殆ど全員が参加しているので、ドキュメンタリー映画を作成する余裕まで確保できた。

担がれている身としては、最初はイヤイヤ働かされている者がいないかと心配した。しかし担任の先生の肝いりで始まったものの、ホームルームの時間などが選挙活動に割り当てられることになった。そういうこともあるのか、士気は上々だった。

唯一気に入らなかったのは、活動が軌道に乗ったところで、高橋がフェードアウトしていったことだ。上村がいればアイツは用済みなのだかれども、やはり必要なところしか手を出して来ないドライさは気に入らない。いつか決着をつける機会があったら、ボコゴにしてやりたいという気がする。

他人をボコボコにするといえば、対立候補のオバケンは、恐ろしいほどに好意的だった。「君が当選したら、生徒会長を任せることになるからね」と言いながら、副会長や書記候補を紹介してくれた。

おまけに生徒会長室への出入りや、複写機などの利用も「候補者だから」と許可された。実に親切で配慮も行き届いていて、生徒会チームの力量には感嘆するばかりだった。

しかしそうはいっても、生徒会は日常業務がある。おまけにオバケンはクラスのバックアップなど皆無なので、一人で街頭演説をしなければならない。

いくら選挙では現職有利といっても、選挙にかける熱量が違っている。おまけにオバケンは、オレを相手とも思っていないのか、本当に選挙活動をやらない。

なんでも放送部と新聞部が協力してアンケートしたところでは、オバケン支持が60%で、オレは35%だったそうだ。お昼の放送や新聞で、名誉なことに「両者伯仲」という見出しが紙面を飾った。

そうやって、徐々に選挙日まで一週間を切るようになった。

*****

さて結果はどうなったかというと、現在のオレは生徒会長のイスに座っている。つまり生徒会長になった訳だ。

ただし生徒会長になって満足しているかというと、全くそんなことはない。内申書で大いに有利になったことなど関係ない!

策謀家たちの手の平で踊らされるほど、オレに取って面白くないことは存在しない。完全に道化役になった気分だ。

まず起こったことだけ説明すると、選挙の三日前、オバケンは自分が転校予定であることを公表した。親父さんの会社の都合で、米国へ引っ越すのだそうだ。

唐突な話である。しかし先の策謀家たちには、想定済みのシナリオだったらしい。

実は選挙の始まる前から、引っ越しは殆ど確定していたのだそうだ。彼はそのことを、生徒会の顧問の先生に伝えたのだそうだ。

で、顧問の先生は、それを職員会議で教員たちに話してしまった。そして先生たちは、内々に次期会長候補の物色を始めたという訳である。

何しろ盤石だった生徒会であり、たとえ生徒会長の座が空白だと分かっても、立候補する者がいるか予測できない。

そしてたとえ立候補者がいたとしても、おかしな者が生徒会長になると、生徒も含めた学校全体の問題となりかねない。そして現在の生徒会には、オバケン以外に統率力のある者が存在しない。

それで生徒会長の候補者探しを耳にした高橋が、背景を全て見抜いてしまい、オレが生徒会長になる布石を打ったという訳である。高橋がどう考えようが、オレとしては全く面白くない。

おまけに彼は、道化役にされたからといってオレが生徒会長を放棄する者ではないと見抜いている。能力や性格を高く評価されていることは分かるけれども、道化役だと分かっていたら間違いなく断っていた。

たとえるならば、あちらがディレクターとかプロデューサーで、オレは映画監督に過ぎなかったという訳だ。

いまいましいことに、さらに高橋は部活の部長をやっている。だから中立的立場にはなれないことを口実として、全く生徒会を支援する意思が見られない。

(もちろん部費を決定するのは生徒会だけれども、オレが公平性を欠かせないことまで見通している。全くもってして面白くない状況だ)

この借りは、いつか必ず返したいと思っている。

たとえ中学で借りは返せなくても、無事に高校へ進学した時には覚えていてほしいものだ。

さて回想はこのくらいにして、さっさと明日の文化祭会議へ準備を済ませる必要がある。

さすがに生徒会長ともなると、それなりに忙しいものだ。責任もある。

唯一の楽しみといえば、天真爛漫な生徒会役員たちの笑顔を見れるくらいだ。この点だけは、生徒会長になって良かったと考えている。

(弱小ラグビー部には、女子マネなど存在しない)

ぱくそた素材:川村友花

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記事作成:よつばせい